中国では、一桁の数のうち1,3,5,7,9の奇数を「陽数」と呼び縁起の良い数とし、2,4,6,8の偶数を「陰数」と呼び縁起の悪い数とする考え方があります。

日本の歴史の中にも、安倍晴明を代表とする「陰陽師(おんみょうじ)」が登場しますが、この陰陽(いんよう)思想は中国の「陰陽説」に端を発します。自然界に存在するあらゆる物質は「陰」と「陽」の二要素のバランスによって成立すると考える説で、後に自然界に存在する物質は「木」「火」「土」「金」「水」の五要素に由来すると唱えた「五行説」と結びついて「陰陽五行説」とも呼ばれるようになります。

有名な「タオ」のマークも陰と陽の二相を組み合わせたものです。

縁起の良い陽数(奇数)である1、3、5、7、9がゾロ目となる日(1月1日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日)を並べてみると、これらが特別な日であることにお気づきになると思います。

もとは中国の陰陽五行説に由来しますが、すっかり日本の季節を彩る年中行事となっている五節句が行われる日です。

正確には1月1日ではなくて1月7日が「人日(じんじつ)」といって七草の節句。3月3日は「上巳(じょうし)」といって桃の節句(ひな祭り)。5月5日は「端午(たんご)」といって菖蒲の節句。7月7日は「七夕(しちせき)」といって七夕の節句。そして9月9日は「重陽(ちょうよう)」といって菊の節句となっています。

あまりなじみがありませんが、七夕を「笹竹の節句」と呼ぶことを合わせると、節句と季節の植物が組み合わされているのも、なるほどとうなずけます。

さて、ここまでの説明でお分かりかと思いますが、9月9日の節句「重陽」には「陽数を重ねた日」という意味があります。「9」という数字は一桁の数の中で最も大きい「陽数」であり、その影響力も最大であると考えられることから、9月9日を特別に「重陽」と呼ぶわけです。

大変興味深いのは、もともと「陽数」の重なる日は陽気が強すぎて不吉なため、それを払う行事として執り行われていたものが、時を経て正反対の「吉祥」の日の祝い事と解釈されるようになったというのです。

何事も度が過ぎるとかえってマイナスになるという捉え方だったのが、いつの間にかプラスの許容範囲が無制限になるという大きなパラダイムシフトの背景には一体何があったのでしょうね。

「過ぎたるは及ばざるがごとし」から「大は小を兼ねる」への変化ということも言えそうな気がします。

文責:石井