~「はやぶさ」の奇跡~

(第50回)(2010.12.27)

激動の2010年ももうすぐ暮れようとしていますが、皆さんはどのような1年でしたか?

重大ニュースのトップは、何といっても「尖閣諸島問題」ですが、このほかの話題も暗いニュースばかりでした。しかし、其のなかでひときわ明るい話題がありました。
小惑星探査機「はやぶさ」の帰還です。今回はひょっとしたら入試にも出るかもしれないこの「奇跡」を取り上げてみましょう。

今年6月22日、7年60億キロの宇宙の旅を終えてオーストラリアのウーメラ砂漠に帰還した「はやぶさ」は、日本の多くの子供たちに(いや、デフレ不況で暗い大人にも)感動を与えました。

「はやぶさ」が鹿児島県内之浦宇宙観測所から小惑星「イトカワ」を目指して打ち上げられたのは、2003年5月9日のことです。
この小惑星「イトカワ」は、地球から約3億キロも彼方にあり、わずか直径540mにすぎない「けし粒」のような惑星です。その小さな「イトカワ」の地表のサンプルを採取し、地球に持ち帰るのが「はやぶさ」のミッションでした。

この計画が提案・検討されたのは、なんと30年ほど前のことです。当時はアメリカやソ連が月に行ったり、火星や金星に向けて大プロジェクトをすでに行っている時代でした。
日本はと言えば、やっと1985年に彗星探査機「さきがけ」を打ち上げたにすぎません。
その差は歴然としていました。ところが、日本の科学者たちはとんでもない目標を掲げました。それが「小天体のサンプルリターン」だったのです。
人類史上初の挑戦でした。

宇宙先進国アメリカでさえも考え付かないようなこの計画は、当時の日本の実力を考えると、いかにも学者の考える夢物語だという人々もいました。しかし、彼らはとうとう成し遂げたのです。「人類初の偉業」を! これは日本人全員が誇っていい快挙です。
このような偉業を成し遂げた秘訣はなんだったのでしょうか?

それは「高い目標」を抱え続けること。そして、「チャレンジ精神と発想力」ではないでしょうか。

(第51回)(2010.12.29)

科学者が「はやぶさ」のミッションを「小天体のサンプルリターン」としたのはなぜだと思いますか?
それは、「小天体を知ることこそが実は地球を知ることにつながる」からです。

今から数十億年前、地球はいくつかの小天体が互いの重力で引き寄せ合い、熱をもって溶けあい、やがて一つの天体となったといわれています。つまり、小天体は地球を作った「原料」とも言えるのです。だから、小天体を知ることは、地球の成り立ちを知ることになるのです。そして、地球の元物質を特定できれば、どのような化学変化が起きたかがわかります。それがわかれば、地震や地球温暖化のメカニズム解明の手掛かりになります。
科学はなんとロマンにあふれているのでしょうか。

「サンプルリターン」にはさらに大きな夢が隠されていました。

小天体への往復を目標に掲げたのは、やがて到来するであろう「宇宙大航海時代」を見据えてのことだったのです。われわれ人類は、そんなに遠くない未来に、地球から月や火星などの天体間の往復をするようになります。SF映画で見た世界が、もう目の前に来ているのです。その時、天体間往復技術がかならず必要になる。その技術を立証する使命も「はやぶさ」は負っていたのです。
それを実現するため「はやぶさ」は、5つの革新的な技術実験を担って出発しました。

1つは、「イオンエンジン」です。 7年間にも渡る宇宙間飛行を成し遂げるためには、従来の燃料技術を使った推進エンジンでは不可能です。そこで燃料効率のよい「イオンエンジン」を開発することにしました。このイオンエンジンが4万時間にも及ぶ長時間飛行を可能にしたのです。

2つは、「自分で位置や姿勢を判断して制御する自律機能」です。

3つは、「独自の採取技術」。

4つは、「地球スイングバイ」。これはイオンエンジンを使った飛行に、地球の重力を利用して加速する方法です。

5つは、「再突入カプセル」です。小天体に着陸するという目標は、NASAがすぐ日本を追い越して行きました。宇宙大国の面目にかけて日本なんかに負けないぞという大国のプライドがそうさせたのです。しかし、そのアメリカも「着陸」までで、「帰路」は成し遂げてはいません。「再突入カプセル」は、月よりも遠くて小さい惑星の表面試料を持ち帰るという世界初の偉業を成し遂げるためにぜひとも必要な技術でした。
「はやぶさ」の奇跡には、このような世界最先端技術の開発という「労苦」が隠されていたのです。

(第52回)(2011.1.5)

あけましておめでとうございます。
いよいよ入試本番間近ですね。あせらず着実に課題をこなしていきましょう。
今回で「はやぶさ」の奇跡は最後です。

「はやぶさ」が7年もかかって地球に帰還するには、最先端の技術開発はもちろんですが、同時にいくつかの危機を乗り越えねばなりませんでした。
その最大の危機は、地球に向けて離陸した後にやってきました。

まさに、人類史上初となる小惑星からの帰還を目指した離陸直後にそれは起こったのです。姿勢制御に用いるロケットエンジンが燃料漏れを起こし、「はやぶさ」は姿勢を崩し、なんと7週間も行方不明になってしまったのです。
地球を回る人工衛星でさえ行方不明になったら修復は難しいと言われています。ましてや、「はやぶさ」は三億キロも離れた彼方。絶体絶命の危機でした。
かりに運良く発見しても、もう一度動くかどうかもわかりません。スタッフは絶望しかけていました。小惑星に行けただけでも十分ではないかという声も聞こえてきました。
其の時プロジェクトマネージャーの川口教授は、スタッフにこう鼓舞しました。

「我々のゴールは地球なんだ。何としても地球に帰ってこよう!粘り強く交信しよう!」と・・・スタッフの執念がみのり、交信は回復しました。そして、2007年、再び地球に向けて運転を開始したのです。
ところが、2009年とうとうイオンエンジンが寿命を迎えてしまいました。今度こそ正真正銘の絶体絶命。しかし、スタッフは今回も絶望はしませんでした。
地球に戻るためになにか方法はないのか。全員で知恵を出し合いました。生き残った機能をフルに使い、なんと運転を再開することができたのです。
そして、見事地球に帰還。

「はやぶさ」とスタッフの行動は、われわれに多くの教訓をもたらしてくれました。

1つは、「あきらめない心」と「高い目標」を持ち続ける大切さ。

一番美しい人生は、少年時代の「夢」を大人になっても持ち続けられる人生。そして、人生の真の勝利者とは、少年時代の「夢」を大人になって成し遂げた人ではないでしょうか。
君たちは若い。どうか「大きな夢」を抱いてください。そして、持ち続けてください。
しかし、「夢」は行動に移さなければ、単なる「夢想家」にすぎません。

「夢」を実現するために、今の自分を客観視し、為さねばならないことを具体的に一つずつ手を打っていくこと。そうした、「小さな積み重ね」からしか「大きな目標」は達成されることはないと知ってください。 受験生の諸君!最後の最後まであきらめずに挑戦してください!

そして、これから受験生となる小5、中2の皆さん!高い目標をもちませんか?

2つは、同じ「夢」「目標」を共有できる「仲間」をもつこと。

一人では人は何もできません。切磋琢磨できる「仲間」をもつこと。これこそ「人生の宝」。「いい仲間」をもつためには、「目標」を持たねばなりません。
自らに「鍛え」のない人には、人は寄ってこないものです。どうか「夢」を通して、魅力ある人間に育っていただきたいと思います。

2011年が皆さんにとって、素晴らしい年でありますように!

(2010.12.27~2011.1.5)