~「はぐくむ言葉」と「つみとる言葉」~

世間では正月気分が抜ききれないのですが、早くも中学入試が昨日から始まりました。

いよいよ受験生にとっては、これまでの精進の成果を試される厳しい日々が続きます。
一人でも多くの教え子たちが、志望校に合格してほしいと願っています。
さて、先日ある塾の女性経営者の方から、大変興味深いお話を伺いましたので、ご紹介いたします。その方はご自身の息子さんを自ら教え、昨年中高一貫校の受検をさせたそうです。受験倍率10倍を超え、大手の進学塾でも一教室で合格者は一人出るか出ないかにもかかわらず、自分の塾では合格率五割をだしました。

しかし、ご自身の子供は不合格。落ち込むとともに、塾の経営者、教師として、一人の母親として、その原因を調べずにはいられなかったそうです。
受験をされた家庭にいろいろ聞くなかでわかったことがありました。
合格することしないこの決定的な差。それは何か。それは「母親の言葉がけ」だったのです。合格された子の母親は、一様に「先生のご指導がよかったからです。ありがとうございました」と感謝の言葉を言われ、「結果がどうであろうと、最後まで子供を応援しようと思っていました」と言われました。

そして、子供には「応援しているからね」、「お父さんも母さんもあなたの味方だからね」と愛情あふれ、やる気を「はぐくむ言葉」をかけていることがわかったのです。
ところが、不合格だった母親に中には、塾の指導を批判する人も多くいました。
「最初からあの子には無理だと思っていました」「何度も言いましたがやらなかったからです」「何をやっても長続きしない子なんです」、挙句は「主人そっくりでいやになります」等々。出てくる言葉は、やる気を「つみとる言葉」ばかり。

そこで、彼女は自分を振り返り、今まで息子にかけてきた言葉を思い返してみました。
「ちゃんと勉強しなさい。お母さんの教え方は完ぺきなのよ」「お母さんの言う通りしていれば受かるんだから」なんと自分は「つみとる言葉」ばかりかけていることに気付いたのです。不合格の原因は、自分にありました。

それ以来、彼女は子供たちの言動を注意して観察するようになりました。
すると一つ気がついたことがありました。
それは、子供たちは何かあるとすぐ「お母さんがね」「だって、ママがぁ」と言うことに。
先生に褒められたり、テストの点数がよかった時など「やったー!ママに褒められる!」
「お父さんが帰ったら見せるんだぁ」と、本当にうれしそうにしています。

どんな子供でも、両親に、とくに母親に褒められたい、認めてもらいたいという気持ちは強いのです。勉強だって同じです。
彼女は、面談の席などで、自分の子供を否定する親に対し、「それは違いますよ。お子さんはちゃんとできる子です。お母さんがお子さんの可能性を否定してどうするのですか」とはっきり言うようにしているそうです。
大人になってしまえば、勉強をはじめとする自己鍛練は「自分のため」だということは理解できます。それでも、「他者」から認められるということは、大人であってもうれしいものです。自己肯定感・充足感は、他者から認められることで満たされるのです。

大人だって認められたい。子供ならなおさらでしょう。だからこそ、親は子供に対する「声かけ」に注意を払わなければならないと思います。

親は子供にとって「最後の防波堤(守護者)」です。その親から「つみとる言葉」しか掛けてもらえない子供が、その可能性を十二分に伸ばせるでしょうか。
ところで、財産には3つあるそうです。「蔵の財」「身の財」「心の財」の3つです。

3つとも残してあげられれば、それにこしたことはありません。しかし、昨今の厳しい経済状況では、「蔵の財」を残せる家庭はそう多くはないでしょう。
「身の財」も、努力とは別の「天与のもの」があるでしょう。
しかし、「心」は万人に共通、貴賤に関係なく平等のものです。

教育は親が子に残せる最高の財産です。教育は、学歴とイコールではありません。
「教育」は、「教え育む」と書きます。「教える」だけでは「教育」にはならないのです。
親や教師の「はぐくむ言葉」に支えられた「教育」は、きっと「人生の荒波」を乗り越えて行ける「心の財」となることでしょう。
私はそう確信しています。

ファインズ・グループは「四自の教育」を理念に掲げています。「はぐくむ言葉」を保護者の方と共有しながら、これからもがんばっていこうと思います。

(2011.1.10~2011.1.24)