黄昏ていく国分寺界隈の今日の風景に、ふと思い出したのは何故か少年時代の花火大会の夜の情景でした。
今日の最後の残照が潮のように引いて、次第に宵闇が深みを増してくる頃、方々から集まってきた花火見物のひしめき合うような群集が口々に何か囁き交わしています。
立ち込めるむっとするような湿った人いきれ。
そして花火大会が始まる前の不思議な期待感と倦怠感。
じっとしていられないぼくらはまるで小魚のように群衆の僅かな隙間をひらりひらりと縫って追いかけっこをしては訳もなく笑い転げたものでした。
アセチレン灯の揺らめきが行き交う人の表情に怪しげな陰影を走らせます。
セルロイド製の色とりどりのお面の中で、なぜか白い狐の面だけが不気味で、その暗く開いた双眸がまるでぼくらを見据えるようです。
ソースの焼ける匂い。
どこかで誰かが争っているのか、突然鋭く起こる怒声。
目敏いぼくらは若いお姉さんの焼くたこ焼きの屋台を見つけて
早速子どもらしく甘えて見せては焼き上がったばかりのたこ焼きを味見させてもらったり
人込みの中にお風呂上りの湿った髪をひとつに束ねた浴衣姿の同級生を見つけて胸をときめかしたり・・・。
そうしてぼくらの興奮がひとつの極に達する頃、花火大会の始まりを告げる音玉が景気良く夜空に響き渡ったものでした。
休憩時間に、一向に暑気の抜けない線路際の非常階段に出て
一息入れるその僅かの間にぼくの脳裏を横切ったのが、少年時代の花火大会の情景であったのは一体何故だったのでしょう。
いずれにしても、夏の気配に満ちた今日の黄昏の情景でありました。





