残暑お見舞い申し上げます。
近年は携帯電話やスマホのメール機能、あるいはLINEやfacebook等のSNSを利用した情報交換が主流となっていますが、日本人には、一年の始まりを寿(ことほ)ぎ「年賀状」を、盛夏を労(ねぎら)って「暑中見舞い」を出すという趣のあるしきたりがあります。
この「暑中見舞い」ですが、「夏休み中ならいつ出してもOK」と考えるととんだ失敗をします。「暑中見舞い」の時季とされているのは二十四節気の「小暑」「大暑(立秋の前日まで)」の期間で、2021年でいうと7月7日~8月6日となります。
【暦の話②】で解説した通り、今年の「立秋」は8月7日でしたので、この日を過ぎて届く葉書に「暑中見舞い」の挨拶は相応しくありません。もちろん、まだまだ暑さは続きますので「お見舞い」の葉書を出すこと自体は問題ありませんが、暦の上で「秋」が訪れてからの葉書には「暑中お見舞い」ではなく「残暑お見舞い」という挨拶をするのがしきたりとなっています。
「暑中見舞い」といえば、中学時代の苦い思い出があります。当時英語の苦手だったぼくが、英語教師でもあった担任に敢えて英語の暑中見舞いを出したのです。辞書を片手に四苦八苦して英文をつづり、小さな満足感と共に葉書を投函したのでした。
さて、夏休みが終わって二学期の始まる日、教室で出欠をとっていた担任に名前を呼ばれます。「何だろう」と思って教室の前へ出ると、何と赤ペンであちこち添削された例の「暑中見舞い」を返却されたのです。おそらく他の生徒には、それがどうも葉書のようであるということ以外わからなかったでしょう。ぼくはといえば、そのことで正しい英文の暑中見舞いを知ることができた代わりに、頑張って苦手な英語に挑戦して散々苦労して暑中見舞いをしたためたことも、完成させてポストに投函したときのほんの少し誇らしい気持ちも、ペシャンコにつぶれてしまったのでした。
それも今となってはどこか懐かしい思い出のひとつです。
文責:石井