往生際(おうじょうぎわ)の悪い停滞前線のせいで、はっきりしない天気の日が続きます。季節外れの台風も、まるで行き場を失ったように迷走しています。それでも日焼けの跡は日毎に淡くにじんで、どこかの庭先から菊の香が漂う季節となりました。
長い長い夜をくぐり抜けて、初めて見事な大輪の菊の咲くことを、ぼくらは知っています。菊の花を育てるのは陽のあたる場所ではなくて、むしろどこまでも深い闇の静けさです。それが秋に咲く花の宿命でもあるように、華やかな光を身にまとったものは一様に沈黙してしまうのです。
<ひとりごと>も、ようやく50回を数えました。
心の形そのものは伝えきれないにしても、その時々の心の色くらいは伝えられるのではないかと、淡い期待を抱きながらの四ヶ月が過ぎました。時間に追われてアップデートしたいくつかの文章に関しては、書き足りない思いばかりが募り、思い切って言葉にしたいくつかの思いについては、勝手なことばかり書いて、と叱られる材料を残した気がしないでもなく、いずれにしても複雑な思いではありますが、時折届く心強い感想に励まされながら、性懲(しょうこ)りもなく言葉を重ねてきたというのが正直なところです。
秋は、何かと物想いにふけることが多くなります。ポカポカと暖かくて静かな秋の陽だまりの中で、果てしなくぼんやりしてみたいなどと時折贅沢(ぜいたく)なことを望んでみたりします。それで、思い出したように文庫本のページをめくってみたり、飛び切り美味しい紅茶の香りを楽しんでみたり……。
さらさらと音もなく降り注ぐ秋の陽。やがて、街路樹がカサカサと葉を落とし、ほんの少し陽が翳(かげ)ると冬の訪れを予感するのです。
けれども、思いのほか明るい表情で、ぼくは青磁色(せいじいろ)の空を見上げます。
冬がくれば、やがて春が近いことにほんの少しトキめいたりしながら……。
文責:石井