あるともない夜風にかぐわしい花の香りが混ざって、金木犀の咲いたことを知らせてくれます。
今年も「月見バーガー」の季節がやってきました。おなじみのサイドメニュー「月見パイ」に加えて、今年は新作の「月見シェーク」が登場したようです。
ということで、本日は「中秋の名月」のお話です。
太陰太陽暦(旧暦)は、基本的には月の満ち欠けに従って作られたカレンダーですから、毎月1日は「朔(さく)」といって新月、3日目の月を「三日月」、そして15日目(十五夜)に月は必ず「望(もち)」と呼ばれる満月になります。名字としてもつかわれる「望月(もちづき)」というのは、つまり満月のことなのです。
【暦の話①】プロローグでも紹介しましたが、旧暦では7月~9月が秋で、8月は秋の真ん中の月であることから「仲秋」と書き表し、その「仲秋」のちょうど中日となる8月15日を、特に「中秋」と書き分けます。ですから8月15日の満月は「仲秋」ではなく「中秋の名月」と書くのが正しい表記となります。
では、今年の中秋の名月はいつかというと、9月21日の火曜日です。つまり、この日が旧暦の8月15日ということですね。
月の陰影に「餅をつく兎」のイメージを重ね合わせるのは日本独自のものかと調べてみると、元々はどうやら中国から渡ってきたもののようで、その経路である朝鮮半島の韓国でも同じように月の陰影に「兎」をイメージしているようです。世界各地には様々な月の模様の見立てがあって、シオマネキのような片方のハサミが巨大化したカニの姿をイメージするのは南欧の国々。横座りして本を読む女性をイメージするのは北欧の国々。飛び上がる躍動的なライオンの姿をイメージするのはアラビアの国々。その他、「バケツを運ぶ少女」「薪を担いだ男」「貴婦人の横顔」などなど、月の模様の見立ては本当にユニークですね。
横顔を見せる貴婦人に確か名前があったように記憶していて、改めてネットで調べてみたけれど検索できませんでした。一体どこで出会ったのか思い出せず、「もしかしたら」と愛蔵の野尻抱影著「星三百六十五夜」を引っ張り出してページをめくってみたものの、薄い本とはいえ春・夏・秋・冬と4巻合わせると600ページ近くなるので、残念ながら見つけ出すことは出来ませんでした。
さて、折角なので、ここで季語としても人気の「名月(明月)」の俳句を三句ほど紹介しておきましょう。
・名月や池をめぐりて夜もすがら(松尾芭蕉)
・名月やうさぎのわたる諏訪の海(与謝蕪村)
・名月をとってくれろと泣く子かな(小林一茶)
「江戸の三大俳人」と呼ばれる三人ですが、300年近く続いた江戸時代ですから、残念ながら生きた時代は重なりません。
三句の中では蕪村の句が分かりにくく、少しばかり解釈が必要かもしれません。「うさぎのわたる」とは、白いさざ波の立った湖面に月が映っている様子で、広辞苑等には「兎波を走る」という表現として取り上げられています。「諏訪の海」というのは諏訪湖の古称ですから、実際には海ではなく湖です。月の陰影に「餅をつく兎」を重ねたイメージが、この句の蕪村にも影響を与えていたかもしれませんね。
満月の夜は、<太陽⇒地球⇒月>が一直線に並んで「月食」の条件が整いますが、残念ながら今年の中秋の名月は月食とはなりません。思いのほか大きい月の軌道のブレのせいで、9月21日の満月は地球の影をすっかり避けて通るからです。
参考までに、今年2度目となる月食は11月19日(金)ですが、残念なことに日本で観られるのは部分月食なのだそうです。
中秋の名月となる9月21日の夜、折角なので晴れるといいですね。