春期講習の前日となる3月25日に、第一期卒業の女子生徒たちの同窓会が開かれました。
講習前日の慌しさは当然あるものの、こちらの都合も斟酌(しんしゃく)して、まさにここしかないというピンポイントの日程を組んでくれた彼女たちのために、ぼくは万難を排してその同窓会に参加させてもらいました。 参加した卒業生たちとぼくと遅れて到着した宮尾先生とで「もんじゃ焼き」の鉄板を囲みながら語り合ったのは、振り返ってみればこの一年間の瞬く間であったという驚きです。そうして、ちょうど一年前の春には受験生であった彼女たちが、今ではすっかり高校生の顔になって咲かせる話の華に、ぼくも楽しく参加させてもらったのです。 その会で、都立西高校の管弦楽団でホルンを吹いているMさんから、4月8日の土曜日に定期演奏会があり、高校2年となる生徒はこの4月の定演で引退するのだと聞いて、たまたま土曜日が週休であったぼくは、折角だからと個人的なスケジュールを調整し直して、その日、中野のZEROホールに足を運びました。 曲目「O.ニコライ 序曲《ウィンザーの陽気な女房たち》」
「A.I.ハチャトゥリアン 組曲《仮面舞踏会》より ワルツ」
「R.ワーグナー楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第1幕への前奏曲」
「A.ドヴォルジャーク 交響曲第8番ト長調」 演奏は、思っていたよりもずっとレヴェルの高い、聴き応えのあるものでした。
それにしても、高校2年生のこの時期に引退というのは、やはり遅かれ早かれ突入する受験体制を考慮してのことなのでしょうね。 それから、これまた休日のピンポイント攻撃となる春期講習明けの4月4日に、今年の卒業生たちに率いられて(!)東京ディズニーランドに行ってきました。同行した宮尾先生は既にビギナーの域を脱しているようですが、ぼく自身は生涯二度目となるTDLです。初めてのディズニーランドがやはり卒業生たちに連れて行ってもらったものであり、もはやそんな機会を捕まえでもしない限りディズニーランドとは基本的に縁がないに違いありません。 それにしてもディズニーランドに行くというのは一大事です。これは前回も感じたことですが、中途半端な覚悟では決して臨めません。朝5時に国分寺駅集合というところから既に命懸けです。電車も動いていないその時間に間に合わせるために、貴重な睡眠時間を削って飛び起きて、久米川からタクシーをつかまえて国分寺に乗り込みました。ただ、本来ならば万全の準備をするべきディズニーランドの基本スタイルである「各種耳飾り」や「首からぶら下げたバケツ(ポップコーンを購入するためのもの)」は、恐れ多くてまだ手が出せません。そうして優に1時間以上早く到着し、朝食用に用意しておいたアンパン(知る人ぞ知る4月4日はアンパンの日なのです)をペットボトルの珈琲で胃に流し込みながら開園時間を待ちます。園内に入れば入ったですぐさま全力疾走。そういえば初めて来たとき、まるっきりの初心者である何も知らないぼくは、改札をくぐったところで一人置き去りにされたのでした。慌てて人込みに目を凝らすと放射状に散っていく人込みの中に、全力疾走で瞬く間に小さくなっていく宮尾先生の背中を見つけて、死に物狂いで追いかけたのでした。その点、今回は違います。入園と同時に卒業生の一人にチケットを渡して、全力疾走で打ち合わせどおりに「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」を目指します。列に並んで待つうちに「スペースマウンテン」のファストパスを人数分手に入れた卒業生が合流するという作戦です。それからは、ファストパスをとっては時間つぶしにどこかのアトラクションの列に並び…の繰り返しで、確か一日で都合12のアトラクションをクリアしたはずです。 それから、前回は特に感じなかったものの、実はパレードが強敵であるということに今回ようやく気付きました。4月5日で終了となる「シンデレラ城のミステリーツアー」に参加するべく移動を開始したぼくらをあざ笑うかのように、何度目かのパレードの列がぼくらの前に立ちはだかったのです。係員に聞くと、列の先頭にいるミッキーを捉えればその直前でシンデレラ城のあるランドの中心部へと渡河できるはずだと教えられ、ぼくらは人波を縫って反時計回りにパレードの列を追いかけました。ところがです。人の波にブロックされ通行止めに阻まれてなかなか行き足のつかないぼくらを追いかけて、パレードの列もジワリジワリと先へ進み、なかなかミッキーマウスを捉えることが出来ないのです。トゥーンタウンから追いかけ始めて、ファンタジーランド・クリッターカントリー・ウエスタンランドと歩き続け、アドベンチャーランド・ワールドバザールに至っても一向に渡河ポイントを見出せず、トゥモローランドまで歩いて、結局ぼくらはディズニーランドを丸一周してもシンデレラ城にたどり着くことができなかったのです。恐るべしディズニーランド。唯一の幸運は、最後となるミステリーツアーの記念に、勇者のみならず参加者の全員に「HEROメダル」がプレゼントされたことです。エンジ色のリボンで首にかけられたメダルは、園内を一周してようやくシンデレラ城にたどり着いたぼくらへのささやかなご褒美(ほうび)だったのかもしれません。そうして帰る頃には足の痛みに耐えかねて立っているのもやっとというくらい疲れ切ってしまったぼくでした。 もちろん、同じ季節を肩を並べて歩き通した卒業生たちと、そうしてぽつりぽつり語らいながら過ごす時間はとても楽しく貴重なものでした。が、しかし、ほんのダイジェストに過ぎない報告でありながら、ここにはすでにディズニーランドの恐ろしさと中途半端な覚悟で臨む危険性とが充分に表現できているはずです。恐るべし、東京ディズニーランド! それから、同じく週休であるはずの4月15日にも急なスケジュールが組まれました。獣医となって日本で経験をつんだ後、2年ほど青年海外協力隊でパラグアイに行っていた大昔の教え子が、ようやく帰国したので、その代の卒業生たちを中心とした歓迎会が開かれることになったのです。思えば2年前にも彼女の「国外退去歓送会」なるものを催したのでした。
ここ数日、恐ろしい頻度でやり取りされるメールによれば、タイミングが合わず残念ながら開催できずじまいだった今年の「お花見」の代わりに、華子という名の彼女を迎える会を「お華見」と称することが決定したとか…。 春を惜しむ人の心とは裏腹に、桜の花は惜しげもなく雨に叩かれ風に散っていきます。そうして、ぼくが一年中で最も好きな新緑の風景へと季節は日毎に塗り変わっていきます。けれども、そんな素敵な季節の中で、ぶらりと散歩に出たついでに馴染みの喫茶店に立ち寄って読み止しの文庫本のページをゆっくりとめくりながらのんびりと過ごすような休日は、まだまだぼくを訪れてはくれません。