(第25回)

あるアメリカの工作機械メーカーが、家庭用ドリルとして4分の1インチのドリルを作りました。 ところが、たいしたマーケッティング調査もせずに作られたこのドリルは家庭用のものとしてはめずらしく爆発的なヒット商品となったのです。

そこで、なぜこのドリルが売れたのかが検討され、役員会でも話題になりました。このとき、この会社のCEOはマーケッティング担当者の報告を聞いて、こう答えたといいます。

「昨年度、4分の1インチのドリルが10万個売れた。これは、人が4分の1インチのドリルを欲したからではなくて、4分の1インチの穴を欲したからである。」

このCEOの言葉がヒントになったのでしょう、マーケット担当者は各家庭でどのような大きさの穴をあける需要があるかを調査しました。 その結果、出来上がった商品は、「本体は1つ、多様な替刃をもつドリル」でした。インチごとのドリルを売るのではなく、ドリルの刃を替えることにより、各家庭での幅広い需要に応えることができるドリルを作ったのです。

この商品は市場を席巻しました。(100万台以上売れたといいます。)
今でこそ、日用大工の商品としては当たり前のようにDIYスーパーの商品棚に並んでいるドリルですが、その背後には一人のCEOの発想の転換があったのです。

この話は、顧客は製品を買うのではない。製品がもたらすベネフィット(便益、利便性)に対する期待を買うのだというレビットの主張を端的に表していると思います。

顧客は製品やサービスのためにカネを払うのではなく、買おうとしているものが自らにもたらすと信じる価値の期待値にカネを払うのだとういうことです。

4分の1インチの「穴を買う」のであって、4分の1インチの「ドリルを買う」のではない。これが企業行動に関するマーケティングの発想なのです。

単なる屁理屈のような気もするかもしれませんが、このことは自分の消費行動を考えてみると分かりやすいかもしれません。

例えば、女性が化粧品を買うときを考えてみましょう。

化粧品はその価格に占める広告宣伝費の割合が高いといわれています。八頭身の外国の美しいモデルがコマーシャルに出てきます。消費者である顧客は、そのモデルに自身を重ね合わせ、美しくなった自分をイメージし、そうなれるかもしれないという期待をもってその化粧品を買うのでしょう。つまり、美しくなるという「夢」を買うのです。

私は最近気分転換のためつりを始めました。最初はほんの時間つぶしだったのですが、たまたま最初のときに30センチほどのニジマスを釣り上げました。
いわゆる「ビギナーズラック」というやつです。これで病みつきになりました。

しかし、2度目の釣果はゼロ。そこで考えました。

「これは腕が悪いのではない。きっと道具が悪いのだ。もっとましな釣具があればつれないはずがない。」釣果ゼロの帰路釣具ショップにより、小遣いをはたき自分にとっては高価な釣竿を買って帰りました。帰宅して、道具をさわりながら、次の釣果を「夢」みました。

そして、GW。いよいよ秋川へ。つれたかって?それは想像にお任せします。

(第26回)

前回は、顧客は製品・サービスを買うのではなくべネフィットを買うのだとう話をしました。

しかし、商品やサービスが市場にあふれ、それに対して慣れた消費者が満ちた現在では製品が顧客のベネフィットを満足させるだけでは充分ではないと考えられるようになりました。

つまり、工場で作られた品物同士の競争ではなく、そこに添加されたもの、例えばパッケージング、サービス、広告、顧客への助言、ローン、配送、保管など、顧客が欲するかたちで添加されたもの同士の競争になっているのです。このことを彼は以下のように述べています。

「競合メーカーの製品が本質的にはみな同じもので、価格も同じだとしたら、いままで自社の製品に冷淡だった潜在顧客をロイヤル・カスタマーに改宗させるには、特別の努力が必要である。

・・・経理事務サービスだろうと料理だろうと、競争相手に勝つためには、潜在顧客と既存顧客に向けて、製品以上の何かを提供しなければならない。製品を一連の価値期待値で覆い、競合他社の製品とはっきり差別できるものにする必要がある。
すなわち、全体として見た提供物の中身は、工場の組立ラインの端末からころがり出るもの以上であければならないのだ。」

この期待値を別の言葉で表現すれば、「希望」「夢」ということになるでしょう。製品を媒体にして、実は希望や夢を顧客に売っているのです。

翻って、私たち教育産業はどうでしょうか。私たちは「製品」と呼べるような「物」は持っていません。 (あえていえば、塾としてのテストやテキストがこれに当たるかもしれませんが「塾」の「商品」の一部に過ぎません。)「塾」はサービス産業の典型なのです。

しかし、「希望を売る」ということでは、どんな産業よりその期待値は大きいものがあります。志望校合格・成績アップ。これに対する保護者・生徒の皆さんの期待が入塾への最大の動機ではないでしょうか。

一人ひとりの生徒・父母の希望をかなえるためファインズ・グループはこれからも皆さんの負託に応えられるよう「挑戦」していきたいと思います。

(2010.5.12~2010.6.10)