「読書の秋」ということで、今回はお勧めの書籍をいくつか紹介しようと思います。

既に読んだ作品も含まれているかと思いますが、まだのものがあれば、是非「秋」の夜長のお供にどうぞ。

 

◇『旅をする木』『イニュニック〔生命〕』『ノーザンライツ』他  【星野道夫】

折々紹介しているので既に読んだ諸君もいるかと思いますが、星野道夫さんの写真と文章は、何といってもその視線が優しく(弱さの裏返しの優しさではなく、人生や生命というものを真摯に厳しく見つめ続ける人の到達した<優しさ>という或る極点を意味する)、生きるということに激しく感動しながらも、決して肩に力を入れず、それをサラリと肯定してみせるそのスタンスがたまらなくステキです。

 

◇『精霊流し』『解夏』『眉山』  【さだまさし】

ご存じの通り「文筆業」が本職ではなく、「作曲家」であり「作詞家」でもある、いわゆる「シンガーソングライター」のさだまさしさん。表現手段こそ違っても、その表現者としてのスタンスはどんな場面でも一貫しています。音楽を表現手段としながら、時に吟遊詩人と評されることもあるけれど、詩人というよりはむしろ短編小説家というイメージの方がぼくには強いのです。たとえばさだまさしさんが、歌の中に青春の、あるいは人生のひとコマを切り取って見せると、そこから時間と空間が広がり始め、やがてそれぞれの歌の背景にある「季節」や「人生」や「世界」がくっきりと描き出されていきます。その見事な手腕は、これらの小説にも遺憾なく発揮されています。

 

◇『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』  【ロバート・フルガム】

自身のことを「哲学者」と公言するロバート・フルガムじいさんの「ありきたりのことに関するありきたりでない考察」エッセイ集です。

 

◇『四日間の奇蹟』  【浅倉卓弥】

ピアニストの道を閉ざされた一人の青年と、脳に障害を負ったピアノの天才少女とが山奥の診療所で遭遇する四日間の不思議な出来事。癒しと再生のファンタジー。

 

◇『太陽の子』『砂場の少年』他  【灰谷健次郎】

何を隠そう、『太陽の子』は、ぼくが<沖縄病>に感染するきっかけとなった本なのです。

 

◇『お嬢さん放浪記』『人間の大地』  【犬養道子】

『人間の大地』は、秋の夜長にさらっと読むには重過ぎるかもしれませんが、「南北問題」という21世紀を生きる上で知らなければならないこと・考えなければならないことの報告であり、必読の書です。

 

◇『ひめゆりの塔をめぐる人々の手記』角川文庫  【仲宗根政善】

かつての夏、果たしてぼくにそんな資格があるかどうかということには目をつぶって、ぼくは一人で今は亡きひめゆりの少女たちの足跡を追って那覇から島尻までそのルートをたどったことがありました。そのときガイドとなった一冊が「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」でした。ひめゆり平和祈念館に飾られた遺影の少女たち。その、一生を僅か三ヶ月に凝縮したような激しい生き様がこの一冊に丁寧に綴じ込まれています。

 

◇『れくいえむ』  【郷静子】

平和な時代にあっては「戦争反対」を唱えることは容易いことです。けれど、だからこそぼくらは考えなければならないのです。何故戦争反対なのかということを。声を荒げて叫ぶ必要などありません。どんな幼稚な理由でも構いません。一人一人がそれぞれのリアルさでもって静かに、けれども熱く戦争を憎み続けることが肝要なのです。戦争という時代は、最も純粋で、ゆえに最も美しいものから徹底的に破壊していくのです。

※絶版になっているので、ネットの古本屋さんで探してみてください。

 

◇『アルジャーノンに花束を』  【ダニエル・キース】

脳に手術を施して人間を天才化するプロジェクトが生み出した実験動物の天才鼠の名は<アルジャーノン>。そして天才化される人間の第一号が主人公のチャーリー。彼らの人生において急激に変貌していく世界。やがてアルジャーノンの身に…。そしてチャーリーは…? 涙腺の弱いメンバーは最後のページを一人きりの時間に読み終えることをお勧めします。

ぼく自身、友人に勧められたとき「くれぐれもラストは一人のときに読んだ方がいいよ」と忠告されていたにもかかわらず、途中でストップをかけることが出来ずに、なじみの喫茶店のテーブル席で最後のページを読み切ってしまったのです。その瞬間にあふれだした涙を、どうにも止められずに、マスターに「どうかしましたか? 大丈夫ですか?」と心配されてしまったのでした。

 

◇『銀河英雄伝説』徳間文庫 全10巻  【田中芳樹】

このスペース・オペラを原作として、コミックが出版され、オリジナル・アニメーションも製作されています。出版から十数年。延べ1000万部以上を売り上げているこの壮大な物語には、ロボットや超人的なヒーローは出てきません。ぼくらの知り得た過去からの歴史の延長線上に、正しく位置付けられた未来の人類の歴史がそこにあります。原作に忠実に描かれていることを考えれば、レンタルビデオでO・Aを借り出して鑑賞するのが解り易いかもしれません。

この小説を読み切った、あるいはO・Aを視聴し切った「君」とは語り合いたいことがたくさんあります。

ちなみに、ぼくは「ヤン・ウェンリー」に心酔しています。

 

◇『チェルノブイリの少年たち』  【広瀬隆】

34年前、1986年4月25日深夜に起きた旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所の大火災。人々の生活を豊かにするはずの原発が、たった一度の事故で、多くの人々の平和な日常だけでなく、その命まで奪っていったのです。著者の広瀬隆さんが、丁寧な取材をもとに書き上げたドキュメント・ノベルで、小説の形式をとってはいるものの、事実に基づいたドキュメンタリーともいえる作品です。

 

◇『生徒諸君!』講談社漫画文庫 全12巻  【庄司陽子】

実はこの『生徒諸君!』、少女コミックなのですが、軽く扱ってはいけません。第一巻の途中まではドタバタ学園コメディかと疑うような内容なのですが、その後、ぐっと内容が濃くなっていきます。主人公のナッキー(北城尚子)と5人の仲間たちの中学時代から大学を卒業して社会人としての大一歩を踏み出すまでの約十年間を描ききった大作です。生きていくということ―その喜びと悲しみ、苦しみも愛も希望も…すべてがここに表現されています。後半は各巻に山場があって、涙なくして読み進めることができない作品であり、それを証明するひとつのエピソードがあります。

学生時代のこと、学生ラウンジで珈琲を飲んでいたぼくの目に、柔道着を着たままの柔道部の猛者が、本を読みながら恥ずかしげもなく涙を流している異様な光景が飛び込んできたのです。好奇心をくすぐられたぼくが何気なく彼の後ろを通過しながら覗き込んで確かめたところ、何とそれは『生徒諸君!』だったのです。

機会があれば是非読んでみて欲しいと思います。ぼくの、ひとつの原点がここにあるということが、ぼくを知る人には理解できるはずです。

 

◇『立原道造詩集』  【立原道造】

異性や青春という季節への切ない思慕が、ソネット形式の美しい調べとなって結晶しています。日本語とはこれほどに美しいものだったのかと気付かされる一冊です。

 

◇『図書館の魔女』 【高田大介】

世界最古の図書館を預かり、古今東西の書に精通した少女・図書館の魔女ことマツリカ。命を賭して図書館の魔女を守るべく育てられた少年・キリヒト。二人を取り巻く……ああ、やはり短い言葉で説明するのは不可能なので紹介は諦めます。

この作品は間違いなく世界レベルのファンタジーです。重厚な、それでいて心地よい独特の文体は、日本語の表現の可能性を解放する歴史的事件です。小・中学生には難しい作品かもしれませんが、いつか必ず出会ってほしい作品として、ここに紹介しておきます。

 

 

さてさて、紹介したい本は他にも沢山あるのですが、続きはまた別の機会ということで、今回はこのくらいにしておきましょう。かつて紹介した作品のいくつかも改めてリストアップしておいたので、まだ読んでいない本があれば、是非読んでみて欲しいと思います。

文責:石井