唯一の合格校であった中央大学付属高校へ進学した彼でしたが、やがて高校1年の秋を迎え、かつて中学受験を共に闘った懐かしいメンバーを集めた同窓会が開かれます。集まったのはそうそうたる高校の生徒たち。高校1年生とはいえ、開成高校・桜蔭高校・巣鴨高校・桐朋高校。進学校に在籍する生徒たちの話題は、早くも大学受験です。その席上に、彼の姿もありました。

驚いたのは会の終了後です。高校受験からわずか8か月。中央大学へのパスポートを手にして附属高校に進学したはずの彼が、突然のように大学受験への挑戦を宣言しました。さらに驚いたのは、かつての戦友たちが、それをたしなめたり笑い飛ばしたりするどころか、一緒に頑張ろうと固い握手を交わしたことです。

「ぼくは、あの素晴らしい仲間たちと、いつまでもどこまでも互いを磨き合っていきたい。ただそれだけなんです。先生、応援してくれますか。」その夜、かかってきた電話で、彼はそう言いました。ぼくが気になっていたのは彼の決意の深さ、それだけです。一時の高揚感に浮かされて道を誤るなら、あるいは立塞がることもぼくの役目ではないか、と考えていた矢先のことでした。「ぼくは君の応援団だ。選手が立ち上がって走るなら、声を枯らして応援するだけさ。」そんなぼくの言葉に声のトーンを上げた、彼の歓喜が伝わってくるようでした。

もちろん、彼の進もうとする道は決して平たんではありません。今でこそ中央大学附属高校は、条件付きながら外部受験を勧める進学校の色合いも見せていますが、当時は、中央大学へのパスポートを手に入れて高校生活をエンジョイする空気。まさに孤軍奮闘の彼は、時折、開成高校から東京大学を目指す仲間と連絡を取り合って士気を高めていたようです。

やがて3年が過ぎ、高校受験のリベンジとなる早稲田・慶應に目標を定めた彼の3度目の受験の季節が訪れます。ところが、深い決意も真摯な努力も虚しく、またしても彼の受験は失敗に終わったのです。開成・桜蔭の友人が、それぞれ東京大学の文科1類・理科2類へと無事進学を果たす一方で、中央大学進学の権利も失い、大学受験に失敗した彼は、その後1年間の浪人生活に突入します。

瞬く間に過ぎる1年。次なる彼の目標は、現役時代に準備が間に合わず諦めた国立大学、そして3度目の挑戦となる早稲田・慶應です。

浪人生として挑んだ彼の大学受験。結果はどうであったかというと、国立大学・早稲田大学・慶應大学と、目標の大学の受験に失敗し、辛うじて東京理科大学の合格を手に入れて幕を閉じます。今でこそ、早慶上理などと言われますが、当時の東京理科大学の評価は決して高くはありません。一年間の浪人生活の末、その新設間もない経済学部に、彼は進学することになります。(つづく)

文責:石井