【アーカイブ㉛】卒業式
3月13日、月曜日(注:2023年ではありません)。 今日は一足早く学大附属中の卒業式です。Finesの今年の卒業生にお祝いのメールを送りました。 ----------------------------------------------------------------------------- 「卒業」というと浮かぶイメージは、何故か中学校までさかのぼります。式に先立って、後輩の女子生徒が思い思いの卒業生の制服の胸に花飾りを付けてくれることになっていて、いち早くぼくを選んでくれた親しい後輩の女の子が、震える手で花飾りのピンを止めながら、心なしか瞳を潤ませていたことを何故か覚えています。 式は、我がクラスの秀才の型破りの答辞に笑ったり泣いたりしたことを除けば、何だか期待外れに呆気ないものでした。式の後、先生方やPTAや後輩たちのつくる校門までの花道を照れくさそうにくぐり抜けると、いつまでも語り合っていたいという思いとは裏腹に、わずかな時間の間にみんな散り散りになっていったのでした。何故かぽっかりと仲間たちの記憶が抜け落ちている代わりに、桜の咲いた校庭に最後まで残ったぼくと、とても仲の良かった女の子と二人で、特別何かを話すというわけでもなく、風に舞う花びらを眺めていたことと、やがて彼女が飛び切りの笑顔で「じゃあね」といって、バス通りへと続く長い坂道を制服のすそを風に翻しながら小走りに駆け降りていったことだけは、不思議と鮮やかにぼくの胸に残っているのです。 卒業式の後、特別な言葉を交わすこともなくバス通りへと続く坂道を駆け出した彼女の背中と、追いかけて捕まえることも出来ずに、あふれるほどの思いを抱きしめて言葉を失ったぼく。柳瀬川の銀色の糸と、その向こうにガランと開けた春の風景の中へ彼女の後ろ姿が吸いこまれて消えるまで、ぼくは校門の脇、毎朝息を切らして駆け上がった坂の上に立ちつくしていました。いつもよりほんの少し強い風の吹く坂道。つやつやと風に光って揺れる彼女の長い髪。くるぶしで折り返した白いソックス。小さく跳ね上がる制服のスカート。ローファーの靴底が立てる乾いた響き…。 それから仲間たちと過ごした様々な時が、まるで紙芝居のように、けれど紙芝居ほどには何の脈絡もなく、次から次へとぼくの脳裏をかすめていきました。 女子部員の陰に隠れて、存在すら危うかった男子バレー部を立て直したこと。磨き上げられた体育館の床でバレーボールシューズのゴム底が立てる「キュッキュッ」という音。フライングレシーブの後の頬に冷たい床の温度。「ここはベッドじゃないのよ。早く起きなさい。」と叫ぶ先輩女子部員の声。 それから、教室を抜け出して屋上に上がり、早くも校庭に出て昼休みの球技に賑わう仲間たちを見下ろしながら食べたお弁当。 クラスの違った彼女から廊下で手渡された手紙のとても美しい文字。返事を書く必要に迫られて、その彼女の美しい文字を手本に、一人練習するうちにみるみる上達した硬筆の文字。 ......